電動機軸受のグリース、本当に「入れ替わって」いますか?

― 給脂量だけでは見えない「古いグリース」と状態基準潤滑の考え方

電動機の軸受では、3か月ごと、6か月ごとなど、あらかじめ決められた周期でグリースを給脂している工場が少なくありません。

しかし、ここで一つ考えてみたいことがあります。

新しいグリースを給脂したとき、軸受内部の古いグリースは本当に新しいグリースへ入れ替わっているのでしょうか。

実際には、

「新しいグリースを入れた」=「古いグリースがすべて排出された」

とは限りません。

そして、この違いを理解することは、電動機軸受の潤滑管理を考えるうえで非常に重要です。

1.グリースは「入っている」だけでは潤滑しているとは言えない

グリース潤滑された転がり軸受では、グリースが軸受箱の中に存在していること自体が目的ではありません。

重要なのは、転動体と軌道面の接触部へ、油膜形成に必要な潤滑剤が適切に供給されることです。

つまり、

Grease presence ≠ Lubrication availability

「グリースが存在すること」と「必要な場所へ潤滑剤が供給されていること」は同じではありません。

グリースは運転中、機械的せん断、温度、酸化などの影響を受けます。また、基油の分離や増ちょう剤構造の変化などによって、新品時とは性状が変化していきます。

その結果、軸受箱の中にはグリースが十分存在しているように見えても、転動体と軌道面の接触入口への潤滑剤供給、いわゆる**replenishment(再供給)**が十分でない状態になる可能性があります。

2.「グリースが多い」と「油膜が十分」は別の話

転がり軸受の接触部では、非常に高い接触圧力のもとで薄い潤滑膜が形成されます。

ここで重要なのが、接触部へ入ってくる潤滑剤の供給状態です。

十分な潤滑剤が接触入口へ供給されていれば、必要な油膜を形成しやすくなります。

一方、周囲にグリースが存在していても、接触入口への供給が不足すれば**starvation(潤滑剤供給不足)**が起こり得ます。

つまり、

グリース量が多い = 油膜が厚い

とは限りません。

ここはグリース潤滑を理解するうえで重要なポイントです。

理論上、回転速度や粘度などから十分な油膜形成能力がある条件でも、実際に接触入口へ潤滑剤が供給されなければ、計算通りの油膜が形成されるとは限りません。

言い換えれば、

「油膜を形成できる能力」と「実際に形成されている油膜」は別の問題

なのです。

3.追加給脂を続ければ、古いグリースは全部押し出されるのか?

電動機では、給脂口から新しいグリースを入れ、古いグリースを排脂側へ押し出す構造が一般的です。

しかし、軸受箱内部のグリースが必ず「古い順番」にきれいに押し出されるとは限りません。

例えば、ある電動機に3か月ごと20 gのグリースを給脂するとします。

年間では80 g。

10年間では、

20 g × 4回 × 10年 = 800 g

ものグリースを投入したことになります。

もちろん、その多くは排脂されます。

しかし、800 gすべてが軸受内部を均一に通過し、古いグリースと完全に置換されたとは限りません。

軸受箱内部では、新しいグリースが流れやすい経路を通って排出される一方、構造上流れにくい場所に古いグリースが残留する可能性があります。

特に、

  • 軸受箱やエンドブラケットの形状
  • 排脂口の位置
  • シール構造
  • グリースの流動性
  • 温度
  • 回転速度
  • 給脂量

などによって、グリースの移動状態は変わります。

したがって、

「定期的に給脂しているから、グリースも定期的に更新されている」

とは必ずしも言えないのです。

4.入れすぎれば良いわけでもない

では、古いグリースを押し出すために大量のグリースを入れれば良いのでしょうか。

これも注意が必要です。

排脂が十分に行われない状態でグリースを追加し続けると、軸受内部のグリース量が過剰になる可能性があります。

過剰なグリースは転動体や保持器によって強く攪拌され、

過剰給脂 → 攪拌抵抗増加 → 発熱

につながることがあります。

場合によっては、シールへの負荷やグリースの劣化を促進する要因にもなります。

つまり、

少なすぎても問題、多すぎても問題

なのがグリース潤滑です。

必要なのは「たくさん入れること」ではなく、必要な潤滑状態を維持することです。

5.そこで重要になる状態基準給脂(CBL)

従来の定期給脂では、

「3か月経ったから給脂する」

「半年経ったから30 g入れる」

といった時間基準・量基準の管理が一般的です。

しかし、実際のグリース劣化速度や潤滑状態は、設備ごとに異なります。

そこで活用されているのが、超音波などを用いた**状態基準給脂(Condition-Based Lubrication:CBL)**です。

転がり軸受の摩擦・微小接触などに伴って発生する高周波成分を監視しながら給脂を行い、給脂による信号変化を確認します。

例えば、

給脂前:超音波レベル上昇

↓

給脂開始

↓

超音波レベル低下

という変化が確認できれば、給脂によって接触状態が改善したことを示す有力な情報になります。

これにより、

「カレンダー上の給脂日だから入れる」

から、

「軸受の状態を確認して、必要なときに必要な量を給脂する」

という管理へ移行できます。

6.ただしCBLにも「できること」と「できないこと」がある

ここは非常に重要です。

超音波を使って給脂前後の状態変化を確認できても、それだけで、

「軸受箱内部の古いグリースがすべて排出された」

ことを確認できるわけではありません。

超音波で主に観察しているのは、運転中の接触・摩擦・衝撃などによって生じる高周波応答です。

つまりCBLは、

いつ給脂するか

どこで給脂を止めるか

を判断するうえで非常に有効ですが、

グリースそのものがどの程度劣化しているか

古いグリースが軸受箱内部にどの程度残っているか

を直接測定しているわけではありません。

7.「状態基準給脂」と「グリース更新」を分けて考える

そこで、電動機の潤滑管理では二つの時間軸を分けて考えることが重要です。

日常管理

超音波などを活用して、

必要なときに、必要な量だけ給脂する。

これがCondition-Based Lubricationです。

中長期管理

オーバーホールや計画停止などの適切なタイミングで、

古いグリースの状態確認、除去、必要に応じたグリース更新を行う。

つまり、

Condition-Based Relubrication + Periodic Grease Renewal

という考え方です。

CBLは「グリースを永久に交換しなくてよくなる技術」ではありません。

むしろ、

日常的な過剰給脂・不足給脂を防ぎながら、中長期的には潤滑剤そのものの状態も管理する。

この二つを組み合わせることが、より合理的な潤滑管理につながります。

8.潤滑管理は「何g入れたか」から「どんな状態か」へ

これまでのグリース管理では、

給脂周期

給脂量

が中心でした。

もちろん、これらは今後も重要です。

しかし本来管理したいのはグリースの投入量ではなく、

軸受が適切な潤滑状態にあるか

です。

そのためには、

給脂周期・給脂量
+ 超音波による接触状態
+ 温度
+ 振動
+ グリースそのものの状態

を組み合わせて考える必要があります。

設備保全における潤滑管理は、

「何か月ごとに何g入れるか」

だけを管理する時代から、

「軸受と潤滑剤が今どのような状態にあるか」

を管理する時代へ移りつつあります。

まとめ

電動機軸受へ新しいグリースを給脂しても、古いグリースが完全に新しいグリースへ置換されているとは限りません。

また、軸受箱の中に十分な量のグリースが存在していても、接触部へ必要な潤滑剤が供給されているとは限りません。

だからこそ重要なのは、

「グリースを入れたか」ではなく、「適切な潤滑状態になっているか」

という視点です。

状態基準給脂(CBL)は、その判断を設備の状態に近づけるための有効な方法です。

一方でCBLだけですべての潤滑問題を解決できるわけではありません。

必要なときに必要な量を給脂する日常管理と、長期間使用したグリースを適切に更新する中長期管理。

この二つを組み合わせることで、電動機軸受の潤滑管理を「給脂作業」から「潤滑状態管理」へ変えていくことができます。