モータ軸受の潤滑とグリース
モータの軸受と潤滑
モータは、家庭用・業務用・産業用を合わせると日本国内に1億台ある*と言われています。そのモータ(電動機)で、数多く使用される軸受は転がり軸受です。特に産業用モータは一部、大形回転機ですべり軸受が使用され潤滑方法は潤滑油ですが、大多数は深溝玉軸受や円筒ころ軸受、アンギュラ玉軸受などの転がり軸受で、潤滑方法はグリース潤滑が支配的です。
* 出典:一般社団法人日本電機工業会「トップランナーモータ2021」
そのグリース潤滑も密閉式とグリース置換え式とに別れ、密閉式の場合はシールドタイプの軸受(軸受接尾記号:Zなど)と開放形とがあり、モータメーカにより基準は異なる場合もありますが、枠番あるいは出力を基準に、小さいモータではシールドタイプを、大きいモータでは開放形を採用していることが一般的です。
グリース潤滑はグリースの置換えがない場合、不可逆的に劣化します。その劣化原因はさまざま考えられますので、モータの運用方法や設置場所などに則した軸受タイプや潤滑方法の選定はとても重要です。

潤滑剤は、液体潤滑剤(潤滑油)・半固体潤滑剤(グリース)・固体潤滑剤に分けられます。産業用モータは荷重や回転数が小さくないことから、軸受の転動体と軌道面には液体潤滑剤か半固体潤滑剤が必要です。液体潤滑剤である潤滑油(オイル)は、大形のモータで見掛ける潤滑方法です。軸受の金属摩擦を低減し、過度な温度上昇を防ぎ、発生した熱の一部を放散するのに役立ちます。しかし、多くの産業用モータは、半固体潤滑であるグリース潤滑が一般的です。そのため、この記事ではグリース潤滑について、解説します。
グリース特性に関わる3つ配合
グリースは、基油(ベースオイル)・増ちょう剤・添加剤の3種類の配合でできています。
モータのグリースは、静音性・低トルク性・給脂のしやすさ・熱への対応・電食対策など多くの要求があり、モータ技術の進歩とともに日々、新たな配合が作り出され、より複雑化しています。
グリースの進化は、増ちょう剤 / 石鹸の種類、硬度、割合、ベースオイルの種類、粘度、その割合、さらにその他の添加剤の変更などで日々進化しています。化学的な観点から見ると、グリースは以下の物質で構成される混合物です。
| 成分 | 構成比 | 役割 |
| 基油(base oil) | 約 70 ~ 90% | 潤滑の主体。鉱油や合成油などが使われる。 |
| 増ちょう剤(thickener) | 約 5 ~ 20% | グリースに「ちょう度(固さ)」を与える。石けん系(リチウム、カルシウムなど)や非石けん系(ポリウレアなど)がある。 |
| 添加剤(additives) | 約 0 ~ 10% | 酸化防止剤、防錆剤、極圧剤(EP剤)などの性能向上成分。用途に応じて種類が変わる。 |
ベースオイル(基油)
グリースの特性は、主に使用されるベースオイルの種類と、増ちょう剤やその他の添加剤によって決まります。ベースオイルは、鉱油またはエステル油、合成炭化水素油、エーテル油などの合成油から構成されます。
一般的に低粘度のベースオイルを使用したグリースは低温・高速に、高粘度のベースオイルを使用したグリースは高温・高負荷に適しています。
増ちょう剤
潤滑油は、基油(ベースオイル)に添加剤で成り立っているのに対し、グリースは半固体状態に保つために、さらに増ちょう剤を混合します。増ちょう剤には、金属石鹸(リチウム、ナトリウム、カルシウム、アルミニウム)と、無機(シリカゲル、ベントナイト)および有機(ポリウレア、フルオロカーボン)の 2 種類の非石鹸増ちょう剤があり、モータ(電動機)で使われるのは最も一般的なものでリチウム石けん系グリースです。さらも性能をあげたリチウムコンプレックス系グリースと、長寿命タイプのモータ用軸受で使われるのがポリウレア系のグリースです。
| 増ちょう剤の種類 | 長所 | 短所 |
|---|---|---|
| リチウム石けん系グリース | ・適度な耐水性 ・酸化安定性が良好 ・広い適用温度(-20〜130℃) | ・高音や極端な水環境にはやや弱い |
| リチウムコンプレックス系グリース | ・高い耐熱性(~180℃) ・耐水性、機械的安定性が良好 | ・若干高価 |
| ポリウレア系グリース | ・酸化安定性に優れ長寿命 ・耐水性も高く200℃近くまで耐えるものもある | ・高価 |
グリースのさまざまな特殊特性(温度範囲の制限、機械的安定性、耐水性など)は、主に増ちょう剤の種類によって異なります。例えば、ナトリウムベースのグリースは一般的に耐水性が低く、ポリウレアやその他の非金属石鹸増ちょう剤を使用したグリースは優れた高温特性を備えています。
添加剤
目的に応じ、さまざまな添加剤が使用され、グリースの特性は変わります。一般的な添加剤は、酸化防止剤、清浄剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、乳化剤、極圧 (EP) 添加剤などです。酸化防止剤は、グリースの劣化を遅らせるため、多くのタイプの転がり軸受で使用されています。
| 添加剤の種類 | 目的 | 解説 |
|---|---|---|
| 酸化防止剤 | 高温環境での基油の酸化劣化を防止する | フェノール系、アミン系。高温での安定性を確保することで、酸化によるスラッジ・粘度上昇を抑える |
| 防錆・防食剤 | 水分や湿気から金属表面を保護する | スチアリルアミン、有機リン酸塩。塩害・湿度が高い環境で必須となる |
| 極圧添加剤(EP剤) | 高荷重下での摩耗を防止する | ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)、一部は硫黄・リン系など。荷重が大きい用途向け |
| 摩耗防止剤 | 軽荷重時や始動時の摩耗を軽減する | モリブデン化合物、ホウ素化合物。 |
| 粘着向上剤 | 軸受表面への油膜保持力を向上させる | 遠心力による飛散防止に有効。 |
| 低温流動性改善剤 | 低温下でもグリースの柔軟性を維持させる | 屋外設置モータなどで使われる場合がある。 |
| 消泡剤 | 攪拌により生ずる泡を抑制する |
極圧添加剤は、スラスト荷重や衝撃荷重を受ける軸受には適していますが、それ以外の用途ではグリース寿命を短くする可能性があり推奨されていません。
グリースのちょう度
ちょう度は、浸透度単位と NLGI(米国グリース協会)のちょう度番号に基づき、グリースの硬さと流動性を示しています。
表 1 に示すように、各 NLGI 番号は浸透度の値の範囲を表しています。
| ちょう度番号 (NLGI*番号) | 混和ちょう度範囲 | ちょう度の目安 | グリースの状態 | 身近な食品で相当するものの例 |
|---|---|---|---|---|
| 000号 | 445〜475 | 流動性が高い(液状) | ほぼオイルに近い | ポタージュスープ、飲むヨーグルト |
| 00号 | 400〜430 | 非常に柔らかい | とろみのある液状 | ケチャップ、ミートソース |
| 0号 | 355〜385 | 柔らかい(低温や自動給脂装置に使われる) | 半液状 | はちみつ、メープルシロップ |
| 1号 | 310〜340 | 少し硬め(低温や自動給脂装置に使われる) | マヨネーズ状 | マヨネーズ、ソース付き納豆のたれ(冷蔵) |
| 2号 | 265〜295 | 標準的な硬さ(多くの産業用モータで使用される) | ピーナッツバター状 | ピーナッツバター、クリームチーズ |
| 3号 | 220〜250 | 硬め | 歯磨き粉のような状態 | 硬めの味噌、マーガリン(冷蔵) |
| 4号 | 175〜205 | かなり硬い | ナイフでようやくすくえる | 冷蔵庫から出したばかりのバター |
| 5号 | 130〜160 | 非常に硬い | 木べらで削るような質感 | 冷えたラード、カチカチの味噌 |
| 6号 | 85〜115 | 極めて硬い | 固形に近い | 石鹸、硬質チョコレート |
ちょう度番号の数字が大きいほどグリースは硬くなり、グリースが所定の位置に留まりやすくなります。これは漏れが懸念される場合に有効です。逆に小さいと、グリースは柔らかく流れやすくなります。ちょう度は、主に基油(ベースオイル)の粘度とグリースにおける基油の割合で決まります。転がり軸受では、ちょう度番号 1、2、3 のグリースが多く使用されています。
ちょう度は、試料グリースを試験容器に入れ、先端に針がついた一定の質量を持つ円錐を落下させたときの、グリースに沈む深さ(mm)を10倍の値にしたものがちょう度です。JISでは「荷重、時間および温度の規定条件において、標準円錐が資料に侵入する距離、0.1mm単位で表す」とされています。
高粘度の基油はグリースを硬くし、ちょう度を下げる傾向にあるため重荷重アプリケーションに適しています。また、高温でグリースが霧化したり薄まったりしにくくなります。低粘度の基油は、軽い荷重や低温のアプリケーションで使用するためにグリースのちょう度が高まります。
最も一般的なのは、鉱物油の代わりにシリコーンオイルを使用するシリコーングリースです。低騒音性に優れた合成グリースや低温および高温用の特殊グリースもあります。

特殊なグリースは特定アプリケーションに適していますが、一般的な用途では適さないことがあるため使用環境にあった選定が重要です。


